■枯淡苑のコメント
『ロボット (R.U.R.)』『山椒魚物語』などで知られるチェコの国民的作家カレル・チャペックの実兄、ヨゼフ・チャペックのエッセイ集。
ヨゼフはチェコの古典児童文学『こいぬとこねこのおかしな話』の作家としても有名ですが、「ロボット」という言葉を生んだ張本人でもあります。
ファシズムへの風刺・批判を続けた結果、強制収容所に連行され晩年の1945年に亡くなりました。
本書では、先立たった弟が大切にしていた庭*を思いやる『庭の思い出』、自らの子煩悩が露悪的・自虐的なユーモアを交えて語られる『女の子の父親たち』、メディアや議員たちの欺瞞を指摘する『政治的情熱』、「人が作る人のようなもの」について饒舌に語るサイボーグ論考と芸術論が重厚に織りなす『人造人間』のほか、第五章にあたる「収容所からの詩」では、獄中で弟・娘・妻への愛を密かに綴った詩や、肉薄した自由への渇望を感じられる詩も掲載。
AI・ロボット、戦争、資本主義の弊害、政治の腐敗など、今の世界を取り巻く情勢に符合する内容も多くある中、ヨゼフ自身が描いたまろやかな線をまとったかわいらしい小さなイラストにも目を見張ります。
装丁・イラスト・舞台装飾などを手掛ける芸術家でもあり、ジャーナリストでもあったヨゼフ。
訳者いわく、彼は"前者は人生の意味と、後者は人生の基礎と関係すると考えていた"らしく、彼のバランス感覚と身軽な芸達者ぶりが滲み出る文章に魅せられる一冊です。
* 弟カレル・チャペックの庭への献身ぶりが記されたのが名著『園芸家12カ月』
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■紹介
ゴーレムからロボットに至る人造人間創造の歴史を描いた「人造人間」のほか、チェコの人々や文化、政治や戦争に関するエッセイ26編とナチス収容所で書かれた詩9編を収録。
■目次
I 人びと
- サボテン愛好家のために
- 自分自身についての文章?
- 丘への道で
- 生まれ故郷
- 女の子の父親たち
- 安い見物席について
- 舞台の準備
- 庭の思い出
II 社会
- 悲しいことだろうか?
- 死刑について
- 人間の多様性について
- 財宝を守る蛇
- 平凡であること
- 民族的情念(パトス)
- 進歩とキャンディ
- 大きなミミズ
III 技術と芸術
- 人造人間
- 新しき宗教 スピードのモラル
- 人は芸術から何を得るか
- 生きている伝統について
IV 政治と戦争
- アララト山からの下山
- 社会主義者の乗り物
- わたしはなぜコミュニストでないのか
- 政治的情熱
- 見えざる死
- 政治的な旅のデザインと描画
V 強制収容所からの詩
- 五年間
- 生のどん底に
- 一九四四年霜月
- こちらへあちらへ
- ふたつの絵
- 弟を偲んで
- わが妻に
- わが娘へ
- 大いなる旅立ちを前にして
編訳者解説
ヨゼフ・チャベック略年譜
初出一覧
■著者プロフィール
飯島 周 (イイジマ イタル) (編集)
1930年、長野県生まれ。東京大学文学部言語学科卒業。跡見学園女子大学名誉教授。2009年、チェコ文化普及の功績により同国政府から勲章受章。主な訳書に、サイフェルト『マミンカ』、〈カレル・チャペック エッセイ選集〉(いずれも恒文社)、K.チャペック『ホルドゥバル』『平凡な人生』(成文社)、J.チャペック『人造人間』、ハシェク『不埒な人たち』 (ともに平凡社)、K.チャペック『いろいろな人たち』『絶対製造工場』『園芸家の一年』(いずれも平凡社ライブラリー)など。
■その他商品情報
著:ヨゼフ・チャペック
訳:飯島 周
出版:平凡社
判型・頁数:B6変型判 、280ページ
発売日:2018年4月12日