枯淡苑のおたより | '22 4月号

〈お店のこと、松本のこと〉

4月のおたよりが遅くなってしまいました。
このおたよりを書いていたらいつの間にかGWも過ぎ、穏やかな日々が戻りつつあります。

4月はこれまで以上に春らしい天気に恵まれ、まちなかは桜と人々が溢れていました。
長い冬が終わり気持ちも上向き始め、久しぶりに晴れやかな気持ちで木々を眺められた気がします。



お店では、新たな本棚をお迎えしました。
「古道具あんころ」さんにお願いをして、アップライトピアノのような雰囲気を持った棚を制作いただきました。

お店の奥に潜むようになっていた美術系の大判本たちがようやく収まるべきところに収まり、どんと構えるような佇まいに思わず唸ってしまいます。
こじんまりとしていた「ケアを聴く」の本たちも上段に引っ越しをしました。

開店当初、本棚は先輩書店さんから譲っていただいたり、自作したりしていましたが、やはりプロにオーダーすると質も違うし、愛着もまた違ったものになりますね。
他の棚たちとのバランスを取りながら、じっくり育てていくのが楽しみな棚となりました。

 

 〈気になる作品〉

今回はSNSでもご紹介した『モーメント・アーケード』です。

あらすじとしては「他人の記憶や感覚を売買し体験できるバーチャル空間」に入り浸っているひとりの女性の物語となっています。
(本作品は短編のため、あまり詳細は書かないようにします)

登場人物は身近な人間関係のみで構成され、舞台はあり得なくもない近未来技術が浸透した世の中。本作品がまとう雰囲気で連想したのは『私たちが光のはやさで進めないのなら』のチョン・セランや、『紙の動物園』に代表されるケン・リュウなどでした。

作中での最新技術の使われ方は現在では議論を呼ぶかもしれないけれど、テクノロジーの前向きな使い方も描かれていて、そのまっすぐな良心に心打たれる場面があり、いまだに続く極端な主義主張や糾弾のためのSNS利用やそれにつけこんだネットニュースが溢れる現状の中でちょっと希望が見えるお話だったような気がしました。(野崎まどの『HELLO WORLD』にも通ずる点がいくつかあるやも......)

著者のファン・モガは日本に長く住んでいたこともあり、訳者と著者の共同作業で日本語訳文を仕上げていくというある種理想的な翻訳方法で書かれたようです。

また、本書は韓国語の原文も収録されており、ルビの振り方やゴシック・明朝らしきフォントの違いなど、韓国語が読めなくとも日本語との書き文字の比較も一興です。

ファン・モガの他に『ARブラインドラブ』という作品も書いており、VRが主体であった『モーメント・アーケード』とは対となるお話なのかなと勝手に期待し、今後も翻訳が出たらどんどん読んでみたい作家さんでした。

本作は映画化も決まっており、日本での公開があったら是非観てみたいところです。

(本担当)

〈新入荷〉




〈告知〉

5月の営業について

今月はとても変速的になりますのでご注意ください。

13〜15日は通常通りの営業時間に戻ります。19日以降は営業時間を大きく拡大しまして、10:00〜19:00となります。
様子を見ながらにはなりますが、しばらくこの時間帯で営業していく予定です。

また、5月下旬にはあらたに小さな企画展を行う予定です。
現在準備中ですのでアナウンスをお待ちください。

5月も過ぎれば2022年も折り返し、今月もよろしくお願いいたします。