■枯淡苑のコメント
フランスの社会学者・民族学者マルセル・モースが、社会の中で偏在する「贈与と交換」についてポリネシア、メラネシア、北米、古代ローマ、ヒンドゥーなど古今東西の贈与体系を比較・分析した論考『贈与論』、そして関連する論考二篇をまとめた1冊。
ゲルマン系言語におけるギフト(gift)という単語が「贈与」と「毒」の意味の2つを持つなど、文化圏ごとの慣習に逐一発見があるのはもちろん、読み進めるうちに我々に無意識に根付いたお礼とお返し、与えることと受け取ること、貸し借り、売り買いなど、現代における日々のコミュニケーション・対人関係の構造が分解されていき、いくつもの問いが湧いてくる内容となっています。
(近年注目される利他の考えにもかかわりがあり、基盤ないしは深めるヒントとなるかもしれません)
『贈与論』と同時期に発表された『トラキア人における古代的な契約形態』『ギフト、ギフト』は、本書である2014年版で邦訳版が日本初収録。
周辺分野における著者の思考過程がうかがえる短い二篇で、『贈与論』の前に肩慣らしとして前提知識を構築できます。
本書は社会学・人類学の分野では古典中の古典で、現代でも関連本、解説本は多く出版されています。
既存の日本語版、原典など多数資料をあたった訳者の重責と膨大な仕事量は、詳細かつ豊富な訳註・解説に表れており、まさに圧巻。
その訳註の量たるや一度はたじろぎますが、あとがきに目を向けると、概念をていねいに噛み砕いた、初学者にもとっつきやすいガイドとなっています。
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■目次
トラキア人における古代的な契約形態
Ⅰ
Ⅱ
ギフト、ギフト
贈与論──アルカイックな社会における交換の形態と理由
序論 贈与について、とりわけ、贈り物に対してお返しをする義務について
エピグラフ
プログラム
方法
給付。贈与とポトラッチ
第一章 贈り物を交換すること、および、贈り物に対してお返しをする義務(ポリネシア)
一 全体的給付、女の財-対-男の財(サモア)
二 与えられた物の霊(マオリ)
三 その他の主題。与える義務、受け取る義務
四 備考──人への贈り物と神々への贈り物
さらなる備考──施しについて
第二章 この体系の広がり。気前の良さ、名誉、貨幣
一 寛大さに関する諸規則。アンダマン諸島
二 贈り物の交換の原理と理由と強度(メラネシア)
ニューカレドニア
トロブリアンド諸島
このほかのメラネシア諸社会
三 アメリカ北西部
名誉と信用
三つの義務──与えること、受け取ること、お返しをすること
物の力
「名声のお金」
第一の結論
第三章 こうした諸原理の古代法および古代経済における残存
一 人の法と物の法(非常に古拙なローマ法)
注解
インド=ヨーロッパ語系の他の諸法
二 古典ヒンドゥー法
贈与の理論
三 ゲルマン法(担保と贈り物)
ケルト法
中国法
第四章 結論
一 倫理に関する結論
二 経済社会学ならびに政治経済学上の結論
三 一般社会学ならびに倫理上の結論
訳注
訳者解説──マルセル・モースという「場所」
■その他商品情報
著:マルセル・モース
訳:森山 工
出版:岩波書店
判型・頁数:文庫判、480ページ
発売日:2014年7月16日