■枯淡苑のコメント
ウォリスはイギリス・デヴォン生まれの画家、そして船乗り。ルソー、モーゼスなどに代表される素朴派としても知られています。本書は、ウォリスの船乗りとしての暮らし、芸術家として遺した作品、そして生きることと芸術活動のつながりを紐解いていく評伝です。
店主はデヴォン州で暮らしていたことがあり、ウォリスが拠点としたコーンウォール州もお隣の州ということもあって、よく出かけていました。
イギリス南部は比較的晴れの日が多く、真っ白な砂浜、青く輝く海と空のまばゆいコントラストが際立つ景色を眺めることができるのですが、本書に載っているウォリスの作品の多くには、より日常的な風景、いわゆるイギリス特有のどんよりした天候が色味に表れているような気がします。
(店主自身はそこにもちろん懐かしさも感じつつ)誰のためでもない自身のための作品だからこそ浮き彫りになる素直さに向き合いながら、「作ることについて」の示唆を得られる1冊です。
余談ですが、彼の墓は、日本の民芸運動にも携わったバーナード・リーチがデザインしたそうで、芸術家が集まる街セント・アイヴスに残り続けているそうです。
■紹介(版元ドットコムより)
「アルフレッド・ウォリスの絵はなぜか忘れがたい。絵とは何か。人間にとって絵を描くとはどういうことなのか。そうした根源的な問いを突き付けてくる。その問いに答える前に、ウォリスは87年という生涯をどう生きたのか。〈船乗り〉としてどんな暮らしをしていたのか。〈芸術家〉としてどのような作品を遺したのか。〈船乗り〉であることと〈芸術家〉であることは、いったいどのように結びついていたのか。その生と芸術の細部に分け入ってみたい。」(本文より)
アルフレッド・ウォリス(1855-1942)はイギリスのデヴォンで生まれ、9歳から船に乗り、コーンウォールの港町ペンザンスで21歳年上の未亡人と結婚、船乗りとして生計を立てるが、やがてセント・アイヴスに移り船具商を営んだ。妻の死後、70歳のウォリスは独学で絵を描きはじめる。孤独を癒すため、厚紙やボードに船舶用ペンキで描いたウォリスの絵は誰にも知られることはなかったが、1928年、セント・アイヴスを訪れた画家のベン・ニコルソンらによって見出だされた。荒海をゆく船、灯台、港など記憶のなかにある光景を描いたウォリスの素朴な絵は、アカデミックな美術教育を受けた画家たちが到底表出しえない真率さに満ち、素朴派の画家として評価が高まった。
日本では2007年に「だれも知らなかったアルフレッド・ウォリス」展(東京都庭園美術館)が開催され、ウォリスの存在が知られるようになった。本書は同展を企画した美術史家の著者が書き下ろした、日本で初めての評伝である。学芸員時代からイギリス美術を研究し、アーティスト・コロニーとして名高いセント・アイヴスを幾度となく訪れ、ウォリスとの対話を続けた著者による渾身の作家論。
■目次
海を見下ろす墓地にその男は眠っている
I
船乗りウォリスの人生
コーンウォールを訪ねて
少年ウォリス
ペンザンス 自立の季節
航海 ニューファンドランドへ
漁夫ウォリス
セント・アイヴス「A・ウォリス船具商」
うつりゆく時代のなかで
ひとりぼっちのセント・アイヴス
II
画家ウォリス 制作と作品
ウォリスはいかにして見出されたか
かれらが学んだこと ウォリスとウッドとニコルソン夫妻
描かれたセント・アイヴス
ウォリスの宇宙
斜めの船
ウォリスの造形 海の色と帆のかたち
III 晩年
「そして家には安らぎがない」 病める心
ウォリスと近代
スーザンの面影
メイドロンの日々 スケッチブックと「死の絵画」
ドキュメント 証言と手紙
草の根の声
手紙 ウォリスとイードとニコルソン
素朴について
あとがきにかえて アルフレッド・ウォリスへの旅
註
参考文献
作品一覧
索引
■著者プロフィール
塩田純一 (シオダジュンイチ) (著/文)
1950年東京都に生まれる。東北大学文学部大学院修士課程美学・美術史学専攻修了。1979年より栃木県立美術館に学芸員として勤務。以後、世田谷美術館、東京都現代美術館、東京都庭園美術館、青森県立美術館美術の学芸職を歴任。2011-18年新潟市美術館館長。1999年第48回ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館コミッショナー。現在、多摩美術大学客員教授。日本および海外の現代美術展を数多く手がける。2007年には「アルフレッド・ウォリス」展(東京都庭園美術館)を企画。著書に『イギリス美術の風景』(ブリュッケ)、『舟越桂 夏の邸宅』(求龍堂)など。
■その他商品情報
出版:みすず書房
判型・頁数:A5判、296ページ
発売日:2021年9月14日