枯淡苑のおたより | '22 3月号

〈お店のこと、松本のこと〉

ついにあたたかくなりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

松本は3月前半は寒い日が続いたものの、ようやく春らしくなり、暖房の頻度も少なく済むようになってきました。

徒歩や自転車で外を回る機会も増え、新しいお店や新しい駐車場などに目が留まり、まちなみが少しずつ変化していることに気づきます。

3月は個人事業主にとってはほぼ苦行となる大行事「確定申告」があり、てんやわんやでした。少しずつ長々とやるのも嫌だし、かといって引き伸ばし続けるのも癪。
ということで、思い立って県内の旅館に泊まって缶詰。無事期限までに終わりました。

お店のことで言えば、2月から開始した小さなミモザ展は多くの方にお越しいただき好評のうち無事終了しました。
また、こちらも同様先月からお知らせしていた信州大学人文ゼミの〈枠ワク・切り取る・街歩く〉の企画に参加させていただきました。

 

とても細かい部分では、古本の値段表記が変わっています。

これまでは本の見返しにある小さなタグに値段が書かれていましたが、現在は「古本」と書かれたスリップ(短冊)が差し込まれ、本の上部にそびえる丸い突起(ボウズと言います)に値段が記載されるようになりました。

古本の値段については、開店から度々お客様から聞かれることもあり、対応せねばと思いつつしばらく経ってしまいましたが、今回の変更によって、どの本が「古本」であるか、「価格」がどこにあるか、以前より多少わかりやすくなったかと思います。

まだ移行期のため全ての本で対応できてはいませんが、近日中には完了予定です。 

  

〈気になる作品〉

本日気になっている作品は『フィールドレコーディング入門』(フィルムアート社)という本です。2022年4月26日発売予定の新刊。

そもそもフィールドレコーディングとは、"広義には、スタジオやステージなど通常の録音環境の外部での録音を指す"(フィールド・レコーディング | 現代美術用語辞典ver.2.0)だそうです。
とても平たく言ってしまえば、文字通り「野外で録音すること」。

本書は、フィールドレコーディングという録音行為、あるいは見方によっては多くの方が親しむ音楽ができるまでの一工程でしかない作業を、 "音が生じる場所の歴史や生態環境、録音者の視点"を持って、音響文化論として網羅的に解説してくれる入門書です。
もしかしたら、音楽との向き合い方すら変えてくれる内容かもしれません。

著者は、ベトナム中部地域の金属打楽器ゴングをめぐる音文化を研究し、フィールドレコーディングの実践者です。
近著では『ベトナムの大地にゴングが響く』(灯光社)、訳書は『レコードは風景をだいなしにする ジョン・ケージと録音物たち』(フィルムアート社)など。


以前からこの分野には興味を抱いてこともあり、松本に来たら密かに「野鳥や木のせせらぐ音、流れる川の音をたくさんフィールドレコーディングしたい」と考えていた節があり、度々レコーダー、マイクなどを揃えて川へ録音しに出かけていました。(開店当時に作った曲では、近所の人が雪かきしていたときの音を録音して組み合わせていました。)

普段気に留めない自然環境の中にある音を、マイクでズームインして細部を観察する、両手で撫で回すように質感を探って心に音像を浮かべていく、そういった行為そのものにスピリチュアルな趣も感じており、なんとも不思議な感覚があるのです。
水の音を録ろうとしても風の音ばかり録れてしまうなど、「見えているものが全てではない」とあらためて実感させられる体験に巡り合うこともしばしば。

また、録音中は余計な音が入らないよう、体を動かさず黙って環境の中に溶け込む必要もあって、まるで社会調査における参与観察のようです。(実際、人類学や民族音楽学などで取られる研究手法としてしっかり確立されています)
第5章は「音のフィールドワーク」と題されており、そのあたりの深い洞察が書かれているのではと期待しています。

昔からの類書では先日新装版が出た『世界の調律: サウンドスケープとはなにか』(平凡社)や『音さがしの本』(春秋社)などがありますが、2020年代以降の出版、しかもコロナ禍以降初のフィールドレコーディング専門書として、何がどんな切り口で語られるのかが気になるところです。

ちょっとでも興味が出てきた方は、著者サイトで興味深い記事がいくつかあるので覗いてみてください。
https://www.eisukeyanagisawa.com/essay

SpotifyやApple Musicでも自然音のプレイリストが豊富にありますので、ステイホームの気分転換がてら、こちらもお試しください。

念仏のように唱えるフレーズになってしまいましたが、いつかコロナ禍が落ち着いたら、東京で昨年新たにオープンした住環境でのリスニングをテーマにしたKankyo Recordsに行ってみたいなあと思っています。

(本担当)

 

〈告知〉

4月の営業日について、少しまとまったお休みをいただく予定です。

1日(金)〜8日(金)が、臨時休業となりますのでご注意ください。

それ以外の日は通常通り営業予定です。

※臨時休業期間、オンラインストアでの発送は、通常通り対応いたします。

4月も引き続き、よろしくお願いいたします。